2021.12.25
 

小泉今日子×小沢道成 <前編>
尽くす女って古いと思いますか?


2021.12.25
 

小泉今日子×小沢道成 <前編>
尽くす女って古いと思いますか?


たった一人で、本多劇場に立つ。
 
その険しい道のりを歩み出した小沢道成が、今話したい人とじっくり対話を重ねるインタビュー連載。第3回の対談相手は、歌手・俳優であり、株式会社明後日の代表取締役社長として数々の演劇や映画のプロデュースをしている小泉今日子さんです。
 
小泉さんの目に『鶴かもしれない』はどう映ったのか。令和の時代に、尽くす女を描くことについて。共に演じ手であり、つくり手でもある二人の賑やかなおしゃべりが始まります。

 
 


 

たった一人で、本多劇場に立つ。
 
その険しい道のりを歩み出した小沢道成が、今話したい人とじっくり対話を重ねるインタビュー連載。第3回の対談相手は、歌手・俳優であり、株式会社明後日の代表取締役社長として数々の演劇や映画のプロデュースをしている小泉今日子さんです。
 
小泉さんの目に『鶴かもしれない』はどう映ったのか。令和の時代に、尽くす女を描くことについて。共に演じ手であり、つくり手でもある二人の賑やかなおしゃべりが始まります。

 


 

この人、意外と天才なんじゃって思いました(笑)
 
小沢 今日は本当にありがとうございます。『鶴かもしれない2020』のときに、小泉今日子さんが観に来てくださっていると聞いて、本当にびっくりしたんです。最初にスタッフさんから「小泉さんがいらしたよ」って聞かされたとき、普通に「いや、嘘だと思う」って言いましたもん(笑)。
小泉 そっくりさんなんじゃないかなって(笑)。
小沢 そう(笑)。「小泉さんは僕のところには来ないよ」って言ってました(笑)。
小泉 峯村リエさんが感想をつぶやいているのを見て、衝動的にチケットをとりました、自分で、ネットから(笑)。
小沢 えー。小泉さんがネットでチケットを…(笑)。
小泉 予備知識もまったくない状態で行ったんですけど、なんて言えばいいんだろうな、演劇を観ているというよりは、今、実際に起こってることをたまたま通りかかって目撃しているような感じがして。お話自体は日常的な市井の話というわけではないのに、そういう気持ちになれたのは、きっと音楽も照明も美術も衣裳も、本当に隅々まで小沢さんのこだわりが行き渡っていたからなんだろうなって。あとで当日パンフレットを見たら、美術も自分でやっているんだって知って。この人、意外と天才なんじゃって思いました(笑)。
小沢 うれしい!
小泉 一人芝居って、場合によってはその人の自己顕示欲みたいなものが出ちゃうじゃないですか。
小沢 わかります。
小泉 それを押しつけられてる感じになったり、ああ気持ちいいんだろうなみたいな感じになって急に冷めていったり。一人芝居ってそうなることが多くて。あとは、やりたいのはわかるけど、すごく雑だなって思うことも結構ある。
小沢 僕もそう感じることはあります。だから、『鶴〜』ではそうならないように心がけていました。
小泉 本当にそうでした。隅から隅まで丁寧につくられていました。
小沢 『鶴〜』は2014年に明大前の小さなギャラリーでやったのが初めてで。あるのは1脚の椅子と3台のラジカセだけ。あとは10着の着物を用意して。実験的にやった公演だったし、好き嫌いの分かれる作品かもなっていう気はしたんです。これって、つまりは愛した男の人のために女の人が自分の身を削る話だから…。中には、キツすぎると感じる人もいるだろうなって。そしたら、その部分より、ラジカセ3台を使って一人芝居をするという形態を面白がってくれる人が多くて。これはもしかしたらもっといろんな人に届く可能性がある作品かもしれないと思って、2016年にOFF・OFFシアター、2020年に駅前劇場でやって。劇場が変わるたびに美術も全部つくり替えて、内容も男の人の設定を変えたり、少しずつ手を入れながらやり続けている作品なんです。
小泉 それはやっぱり演じるのもご自身で、演出するのもご自身でっていう、ミニマムなユニットだからできることですよね。でも、そんなふうにつくり手が面白いなと思うものを、時間をかけて、アップデートしながら成長させていくっていうのは、演劇としては本来望ましい形な気がします。
 

この人、意外と天才なんじゃって思いました(笑)
 
小沢 今日は本当にありがとうございます。『鶴かもしれない2020』のときに、小泉今日子さんが観に来てくださっていると聞いて、本当にびっくりしたんです。最初にスタッフさんから「小泉さんがいらしたよ」って聞かされたとき、普通に「いや、嘘だと思う」って言いましたもん(笑)。
小泉 そっくりさんなんじゃないかなって(笑)。
小沢 そう(笑)。「小泉さんは僕のところには来ないよ」って言ってました(笑)。
小泉 峯村リエさんが感想をつぶやいているのを見て、衝動的にチケットをとりました、自分で、ネットから(笑)。
小沢 えー。小泉さんがネットでチケットを…(笑)。
小泉 予備知識もまったくない状態で行ったんですけど、なんて言えばいいんだろうな、演劇を観ているというよりは、今、実際に起こってることをたまたま通りかかって目撃しているような感じがして。お話自体は日常的な市井の話というわけではないのに、そういう気持ちになれたのは、きっと音楽も照明も美術も衣裳も、本当に隅々まで小沢さんのこだわりが行き渡っていたからなんだろうなって。あとで当日パンフレットを見たら、美術も自分でやっているんだって知って。この人、意外と天才なんじゃって思いました(笑)。
小沢 うれしい!
小泉 一人芝居って、場合によってはその人の自己顕示欲みたいなものが出ちゃうじゃないですか。
小沢 わかります。
小泉 それを押しつけられてる感じになったり、ああ気持ちいいんだろうなみたいな感じになって急に冷めていったり。一人芝居ってそうなることが多くて。あとは、やりたいのはわかるけど、すごく雑だなって思うことも結構ある。
小沢 僕もそう感じることはあります。だから、『鶴〜』ではそうならないように心がけていました。
小泉 本当にそうでした。隅から隅まで丁寧につくられていました。
小沢 『鶴〜』は2014年に明大前の小さなギャラリーでやったのが初めてで。あるのは1脚の椅子と3台のラジカセだけ。あとは10着の着物を用意して。実験的にやった公演だったし、好き嫌いの分かれる作品かもなっていう気はしたんです。これって、つまりは愛した男の人のために女の人が自分の身を削る話だから…。中には、キツすぎると感じる人もいるだろうなって。そしたら、その部分より、ラジカセ3台を使って一人芝居をするという形態を面白がってくれる人が多くて。これはもしかしたらもっといろんな人に届く可能性がある作品かもしれないと思って、2016年にOFF・OFFシアター、2020年に駅前劇場でやって。劇場が変わるたびに美術も全部つくり替えて、内容も男の人の設定を変えたり、少しずつ手を入れながらやり続けている作品なんです。
小泉 それはやっぱり演じるのもご自身で、演出するのもご自身でっていう、ミニマムなユニットだからできることですよね。でも、そんなふうにつくり手が面白いなと思うものを、時間をかけて、アップデートしながら成長させていくっていうのは、演劇としては本来望ましい形な気がします。
 

 
尽くすにしても、鶴にも羽根に限界はある
 
小沢 今も『鶴かもしれない2022』に向けて台本をどうしようか考えているところなんですけど。この『鶴〜』に出てくる女性の行動って、結構僕自身の恋愛観が乗っかっているところがあって。僕は好きになると相手のために尽くしたくなるんですよ。それこそ『鶴〜』みたいに好きな人の為に料理をつくったり、服をプレゼントしたり、全然するし(笑)。でも、そういう女性の描き方について前回のアンケートで「古い」と書かれたんですね。それを読んで、この相手を喜ばせたいという気持ちって古いものなのっていう疑念を持っちゃって。どう思います?
小泉 私は1960年代生まれで、小さい頃から本を読んでもドラマを観ても、女の人が男の人に尽くす姿が当たり前に描かれていて。家でも、父親だけおかずが一品多いとか、まだご飯はできていないけど、先に父の分のビールとおつまみが出てて、飲みながらプロ野球を観ているというのが普通の光景だったんですね。だから、私自身、誰にそうしなさいと言われたわけでもないのに、相手のために何でもしてあげることが正解みたいに思っているところがあって。まあ、結局ずっとは無理みたいになっちゃうんですけど。
小沢 それは子どもの頃からその光景を見て、心の中でおかしいと思っていたということですか。
小泉 ううん、そうじゃなくて。例えば誰かとお付き合いとかをしてもね、最初はめっちゃご飯とかつくるし、何でもしてあげるみたいになっちゃうんだけど、それで最後までうまくいくことがあんまりない(笑)。
小沢 あはは。めっちゃ面白い(笑)。
小泉 自分も最初は楽しいんだけどね。でもやっぱり鶴にも羽根には限界があるじゃん。
小沢 そうなんですよね。
小泉 羽根が全部なくなったら、どんなに機を織ってあげたくてもできない。人も一緒で。今日は外に食べ行こうよとか、今日は僕がつくるよとか、そうやってフィフティフィフティでいようとしてくれる相手ならいいけど。最初に私から何でもしてあげるっていう感じでやっちゃっうもんだからさ。
小沢 向こうも、それが当たり前だと思っちゃいますからね。
小泉 そう。でも自分が忙しいときは、そうはいかないし。そんなことを繰り返してきて、結局自分の覚悟の甘さに気づくという結果に(笑)。
小沢 僕はまだ自分の尽くしたい欲の抑え方が全然わからなくて。だから、なるべく恋愛をしないようにしてるんですけど。って、なんか人生相談みたいになってる! 本当申し訳ないです。でもせっかくだし、こういう回があってもいいかもしれない(笑)。
小泉 いいかもね(笑)。
小沢 『鶴〜』にもつながってる話ですもんね。僕の場合、恋愛にどっぷり浸かってしまうと、演劇を辞めると思うんです。たぶん仕事なんてしたくないってなる。で、毎日その人の為に料理してそう(笑)。ダメなんです、好きな人にLINEとか送ると、まじで返ってくるのをひたすらケータイをじーっと見つめながら待ち続けて1日が終わるとか、そういうふうになっちゃうんで。だから今は恋愛はせず、近くのコンビニの店員さんとかを見て、「あの人、素敵だな」ってドキドキして、それで満足するようにしてる(笑)。
 
――小泉さんは、恋愛と表現って両立すると思いますか。
 
小泉 表現するものによるでしょうね。ある表現には必要かもしれないけど、ある表現にはまったく必要ないかもしれないし。恋をたくさん経験してる人が魔性の女を演じたら上手いかというとそうでもなかったりして。逆に男性と一度もそういう経験がない人が魔性の女をやったらすごく似合っていることがあるのが、表現の世界。結局はその人の想像力の問題で。でも、『鶴〜』に小沢くんの恋愛観が乗っかっているんだとしたら、そんなふうに手がつかなくなるような恋が、『鶴〜』をつくる上では必要だったんでしょうね。
小沢 そうですね。『鶴〜』を初めて書いたときは、ちょうど大失恋したあとだったし(笑)。
 

 
尽くすにしても、鶴にも羽根に限界はある
 
小沢 今も『鶴かもしれない2022』に向けて台本をどうしようか考えているところなんですけど。この『鶴〜』に出てくる女性の行動って、結構僕自身の恋愛観が乗っかっているところがあって。僕は好きになると相手のために尽くしたくなるんですよ。それこそ『鶴〜』みたいに好きな人の為に料理をつくったり、服をプレゼントしたり、全然するし(笑)。でも、そういう女性の描き方について前回のアンケートで「古い」と書かれたんですね。それを読んで、この相手を喜ばせたいという気持ちって古いものなのっていう疑念を持っちゃって。どう思います?
小泉 私は1960年代生まれで、小さい頃から本を読んでもドラマを観ても、女の人が男の人に尽くす姿が当たり前に描かれていて。家でも、父親だけおかずが一品多いとか、まだご飯はできていないけど、先に父の分のビールとおつまみが出てて、飲みながらプロ野球を観ているというのが普通の光景だったんですね。だから、私自身、誰にそうしなさいと言われたわけでもないのに、相手のために何でもしてあげることが正解みたいに思っているところがあって。まあ、結局ずっとは無理みたいになっちゃうんですけど。
小沢 それは子どもの頃からその光景を見て、心の中でおかしいと思っていたということですか。
小泉 ううん、そうじゃなくて。例えば誰かとお付き合いとかをしてもね、最初はめっちゃご飯とかつくるし、何でもしてあげるみたいになっちゃうんだけど、それで最後までうまくいくことがあんまりない(笑)。
小沢 あはは。めっちゃ面白い(笑)。
小泉 自分も最初は楽しいんだけどね。でもやっぱり鶴にも羽根には限界があるじゃん。
小沢 そうなんですよね。
小泉 羽根が全部なくなったら、どんなに機を織ってあげたくてもできない。人も一緒で。今日は外に食べ行こうよとか、今日は僕がつくるよとか、そうやってフィフティフィフティでいようとしてくれる相手ならいいけど。最初に私から何でもしてあげるっていう感じでやっちゃっうもんだからさ。
小沢 向こうも、それが当たり前だと思っちゃいますからね。
小泉 そう。でも自分が忙しいときは、そうはいかないし。そんなことを繰り返してきて、結局自分の覚悟の甘さに気づくという結果に(笑)。
小沢 僕はまだ自分の尽くしたい欲の抑え方が全然わからなくて。だから、なるべく恋愛をしないようにしてるんですけど。って、なんか人生相談みたいになってる! 本当申し訳ないです。でもせっかくだし、こういう回があってもいいかもしれない(笑)。
小泉 いいかもね(笑)。
小沢 『鶴〜』にもつながってる話ですもんね。僕の場合、恋愛にどっぷり浸かってしまうと、演劇を辞めると思うんです。たぶん仕事なんてしたくないってなる。で、毎日その人の為に料理してそう(笑)。ダメなんです、好きな人にLINEとか送ると、まじで返ってくるのをひたすらケータイをじーっと見つめながら待ち続けて1日が終わるとか、そういうふうになっちゃうんで。だから今は恋愛はせず、近くのコンビニの店員さんとかを見て、「あの人、素敵だな」ってドキドキして、それで満足するようにしてる(笑)。
 
――小泉さんは、恋愛と表現って両立すると思いますか。
 
小泉 表現するものによるでしょうね。ある表現には必要かもしれないけど、ある表現にはまったく必要ないかもしれないし。恋をたくさん経験してる人が魔性の女を演じたら上手いかというとそうでもなかったりして。逆に男性と一度もそういう経験がない人が魔性の女をやったらすごく似合っていることがあるのが、表現の世界。結局はその人の想像力の問題で。でも、『鶴〜』に小沢くんの恋愛観が乗っかっているんだとしたら、そんなふうに手がつかなくなるような恋が、『鶴〜』をつくる上では必要だったんでしょうね。
小沢 そうですね。『鶴〜』を初めて書いたときは、ちょうど大失恋したあとだったし(笑)。
 

 
これからの時代は、誰と手をつなぐかだと思っている
 
小沢 こういう尽くす恋って僕の中では今もナウというか。それこそ身を削るという言葉をさっき使いましたけど、当の本人としては喜びなんですよね、尽くせることが。むしろまた誰かを好きになったときに、今までみたいに尽くさずにいられるかどうかというとちょっとわからない。
小泉 私の30年来の友人が同じようにすごく尽くすタイプで。本当、恋をすると相手のことでいっぱいになっちゃう人なんだけど。一度、当時付き合っていた恋人が埼玉の端の方に住んでで。「今、家にいるよ」って相手は言ってるのに、どうしても信じられなくて。東京から埼玉まで車を飛ばして、その人の家に明かりがついてるのを見て帰ってくるみたいなことをやってた(笑)。
小沢 同じことやってた〜(笑)。
小泉 失恋した直後は一人でいられなかったらしくて。うちの家に居候していたこともある。
小沢 すごい度胸(笑)。
小泉 ちなみにその人は今、すごく尊敬できる男性ができて。恋愛感情とかではまったくないんだけど、その男性の役に立てるのがすごくうれしいという関係で。男性の奥さんもその人のことを信頼していて。忙しい奥さんの代わりに、お子さんの朝ご飯とかお弁当をつくったり、電動自転車に乗って送り迎えとかしてる。シッターをして。
小沢 面白い。新しい関係性ですね。
小泉 おかげで今は精神的にはすごく満たされているみたい。30年前からあんなに恋をするたびに尽くしたがっていた子が、最終的にはここに行き着いたか、と。でもそれがその人の幸せなんだよね。
小沢 わかる気がする。でも世代の差はあるのかもしれないですね。今の若い人たちからすると、もしかしたらそういう一方的に尽くそうする人って古いと見えるのかもしれない。
小泉 ちょっと価値観が変わってきているところはあると思う。それこそもっと昔なんて女の人には選挙権すらなくて、働きに出ることすらできなくて、社会と関われる場所って家庭しかなかった。相手のために尽くす喜びって、もしかしたらそういう環境から生まれたものかもしれないし。それが今は、男の人も厳しい状況で。男性だからって相手を養えるほどの経済的な余裕もなくて、今では共働きが当たり前だし。男性が女性におごってあげるのもどんどんなくなりつつあるって聞くしね。そういう状況だと、尽くすも尽くさないもないのかもしれない。
小沢 ああそうか。次は、そこを描くのもアリかもしれない。実は、次の『鶴かもしれない2022』では、東京に住むってどういうことなんだろうということにもうちょっと焦点を置いてみたいなと考えているんですね。そんなときに小泉さんが朗読をやられていた『私の欠片(かけら)と、東京の断片』を拝見して、すごく面白かったんです。
小泉 あれ、すごい面白かったですよね。
小沢 社会学者の岸政彦さんが編集された『東京の生活史』という本がベースになっているドキュメンタリー番組で。そのあとすぐに本も買いました。150人の聞き手が、150人の東京で暮らす人たちの生活を聞くという内容で。今も読んでいるんですけど、150人もいるから全然終わらない…(笑)。
小泉 あれ、分厚すぎて「鈍器本」って呼ばれているそうです(笑)。
小沢 「鈍器本」(笑)。面白いのが、変に編集されていないんですよね。その人の語り口調そのままで書かれている。だから余計に胸に来るところがあって。
小泉 男女関係なく、いろんな世代の人がいて、言葉もいろんな方言がそのまま出ててね。
小沢 そう。それを読みながら、東京で生きるということを改めて見つめ直している最中で。特にコロナ禍以降、経済的に苦しい状況が続いていて、東京に住むことの大変さをすごく感じているんですね。男性も、女性も、みんな生活にいっぱいいっぱいで、明日がどうなるかまったく見えない。そういう時代の中で、東京という大都会で生きる男と女の話になったらいいなって。
小泉 結局は、誰と手をつなぐかっていうことなんじゃないかと私は思っている。
小沢 それだ! それかもしれない。誰と手をつなぐか。
小泉 一人じゃ無理だからね。
小沢 でも二人で生きていくためにもお金は必要で。そこで、女性の側はどうするっていう展開になるのもありだなあ。
 

 
これからの時代は、誰と手をつなぐかだと思っている
 
小沢 こういう尽くす恋って僕の中では今もナウというか。それこそ身を削るという言葉をさっき使いましたけど、当の本人としては喜びなんですよね、尽くせることが。むしろまた誰かを好きになったときに、今までみたいに尽くさずにいられるかどうかというとちょっとわからない。
小泉 私の30年来の友人が同じようにすごく尽くすタイプで。本当、恋をすると相手のことでいっぱいになっちゃう人なんだけど。一度、当時付き合っていた恋人が埼玉の端の方に住んでで。「今、家にいるよ」って相手は言ってるのに、どうしても信じられなくて。東京から埼玉まで車を飛ばして、その人の家に明かりがついてるのを見て帰ってくるみたいなことをやってた(笑)。
小沢 同じことやってた〜(笑)。
小泉 失恋した直後は一人でいられなかったらしくて。うちの家に居候していたこともある。
小沢 すごい度胸(笑)。
小泉 ちなみにその人は今、すごく尊敬できる男性ができて。恋愛感情とかではまったくないんだけど、その男性の役に立てるのがすごくうれしいという関係で。男性の奥さんもその人のことを信頼していて。忙しい奥さんの代わりに、お子さんの朝ご飯とかお弁当をつくったり、電動自転車に乗って送り迎えとかしてる。シッターをして。
小沢 面白い。新しい関係性ですね。
小泉 おかげで今は精神的にはすごく満たされているみたい。30年前からあんなに恋をするたびに尽くしたがっていた子が、最終的にはここに行き着いたか、と。でもそれがその人の幸せなんだよね。
小沢 わかる気がする。でも世代の差はあるのかもしれないですね。今の若い人たちからすると、もしかしたらそういう一方的に尽くそうする人って古いと見えるのかもしれない。
小泉 ちょっと価値観が変わってきているところはあると思う。それこそもっと昔なんて女の人には選挙権すらなくて、働きに出ることすらできなくて、社会と関われる場所って家庭しかなかった。相手のために尽くす喜びって、もしかしたらそういう環境から生まれたものかもしれないし。それが今は、男の人も厳しい状況で。男性だからって相手を養えるほどの経済的な余裕もなくて、今では共働きが当たり前だし。男性が女性におごってあげるのもどんどんなくなりつつあるって聞くしね。そういう状況だと、尽くすも尽くさないもないのかもしれない。
小沢 ああそうか。次は、そこを描くのもアリかもしれない。実は、次の『鶴かもしれない2022』では、東京に住むってどういうことなんだろうということにもうちょっと焦点を置いてみたいなと考えているんですね。そんなときに小泉さんが朗読をやられていた『私の欠片(かけら)と、東京の断片』を拝見して、すごく面白かったんです。
小泉 あれ、すごい面白かったですよね。
小沢 社会学者の岸政彦さんが編集された『東京の生活史』という本がベースになっているドキュメンタリー番組で。そのあとすぐに本も買いました。150人の聞き手が、150人の東京で暮らす人たちの生活を聞くという内容で。今も読んでいるんですけど、150人もいるから全然終わらない…(笑)。
小泉 あれ、分厚すぎて「鈍器本」って呼ばれているそうです(笑)。
小沢 「鈍器本」(笑)。面白いのが、変に編集されていないんですよね。その人の語り口調そのままで書かれている。だから余計に胸に来るところがあって。
小泉 男女関係なく、いろんな世代の人がいて、言葉もいろんな方言がそのまま出ててね。
小沢 そう。それを読みながら、東京で生きるということを改めて見つめ直している最中で。特にコロナ禍以降、経済的に苦しい状況が続いていて、東京に住むことの大変さをすごく感じているんですね。男性も、女性も、みんな生活にいっぱいいっぱいで、明日がどうなるかまったく見えない。そういう時代の中で、東京という大都会で生きる男と女の話になったらいいなって。
小泉 結局は、誰と手をつなぐかっていうことなんじゃないかと私は思っている。
小沢 それだ! それかもしれない。誰と手をつなぐか。
小泉 一人じゃ無理だからね。
小沢 でも二人で生きていくためにもお金は必要で。そこで、女性の側はどうするっていう展開になるのもありだなあ。
 

 
本質は古い新しいではなく、お客さんに何を残せるか
 
――フェミニズムが浸透し、今、女性の描き方は多くの書き手が問われているところだと思います。一方で、古典演劇のように時代に左右されない強度もまた演劇の醍醐味でもある。小泉さんはもし自分の表現が「古い」と言われたらどうしますか。やはり時代の変化に応じてアップデートしていくべきだと思いますか。
 
小泉 本質は古いか新しいかではなく、その設定でお客さんに何を残せるか、だと思うんですよね。だから、尽くす女という設定自体はどっちでもいいんじゃないっていう気がする。今回の『鶴〜』のように何度も上演を重ねてひとつの作品をアップデートしていくスタイルなら、いろいろ挑戦してみてもいいかもしれないと思うし。
小沢 何を残せるか…。確かにそうかも。僕が初めて『鶴〜』を書いたときに、何を伝えたいと思ったのか、それを思い出すのが大事な気がする。
小泉 そのアンケートを書いた人からは古いように見えたのかもしれないけど、でもじゃあ30年後に尽くす女が一人もいなくなるかと言ったら、私はいると思うもん。
小沢 僕もいると思います(笑)。
小泉 たとえば、これがテレビドラマだったら、古いと言われてもしょうがないかもしれないけど。
小沢 演劇だったらあるかもしれない。
小泉 古いと言った人は、きっと小沢くんが生きている世界とは全然違う毎日を生きてる。ただそれだけなんじゃないかな。
小沢 そういう人が『鶴〜』を観て古いと感じたとしても、それはそれでいいことなのか。この2年ぐらいずっと引っかかってたんですよね。なんだか自分自身を古いって言われてたみたいな感じがして。もちろんアンケートを書いた方を責めているわけではなくて。
小泉 もともと『鶴の恩返し』というモチーフから始まっているわけだし、だから別にいいんじゃない? 尽くしても。
小沢 そりゃそうだ。話が変わっちゃいますもんね。ありがとうございます。なんだか吹っ切れました。
 
 
まるで酒場の放談のように、自由気ままに語らい続ける二人。盛り上がりすぎて、今回は前後編の2本立て。後編では、プロデューサーとしての顔を持つ小沢から小泉さんに「俳優がプロデュースをすること」について聞いていきます。お楽しみに!
 

 

 
本質は古い新しいではなく、お客さんに何を残せるか
 
――フェミニズムが浸透し、今、女性の描き方は多くの書き手が問われているところだと思います。一方で、古典演劇のように時代に左右されない強度もまた演劇の醍醐味でもある。小泉さんはもし自分の表現が「古い」と言われたらどうしますか。やはり時代の変化に応じてアップデートしていくべきだと思いますか。
 
小泉 本質は古いか新しいかではなく、その設定でお客さんに何を残せるか、だと思うんですよね。だから、尽くす女という設定自体はどっちでもいいんじゃないっていう気がする。今回の『鶴〜』のように何度も上演を重ねてひとつの作品をアップデートしていくスタイルなら、いろいろ挑戦してみてもいいかもしれないと思うし。
小沢 何を残せるか…。確かにそうかも。僕が初めて『鶴〜』を書いたときに、何を伝えたいと思ったのか、それを思い出すのが大事な気がする。
小泉 そのアンケートを書いた人からは古いように見えたのかもしれないけど、でもじゃあ30年後に尽くす女が一人もいなくなるかと言ったら、私はいると思うもん。
小沢 僕もいると思います(笑)。
小泉 たとえば、これがテレビドラマだったら、古いと言われてもしょうがないかもしれないけど。
小沢 演劇だったらあるかもしれない。
小泉 古いと言った人は、きっと小沢くんが生きている世界とは全然違う毎日を生きてる。ただそれだけなんじゃないかな。
小沢 そういう人が『鶴〜』を観て古いと感じたとしても、それはそれでいいことなのか。この2年ぐらいずっと引っかかってたんですよね。なんだか自分自身を古いって言われてたみたいな感じがして。もちろんアンケートを書いた方を責めているわけではなくて。
小泉 もともと『鶴の恩返し』というモチーフから始まっているわけだし、だから別にいいんじゃない? 尽くしても。
小沢 そりゃそうだ。話が変わっちゃいますもんね。ありがとうございます。なんだか吹っ切れました。
 
 
まるで酒場の放談のように、自由気ままに語らい続ける二人。盛り上がりすぎて、今回は前後編の2本立て。後編では、プロデューサーとしての顔を持つ小沢から小泉さんに「俳優がプロデュースをすること」について聞いていきます。お楽しみに!
 

取材・文:横川良明  写真:山野浩司

第1弾掲載
本 多 愼 一 郎
2021年11月13日 公開

 

第2弾掲載
徳 永 京 子
2021年12月6日 公開

 

第3弾掲載
小 泉 今 日 子
2021年12月25日 公開

 

第4弾掲載
谷 賢 一
2022年1月22日 公開

 

第5弾掲載
2022年2月5日 公開予定

 
 T O P  

第1弾掲載
本 多 愼 一 郎
2021年11月13日 公開

 

第2弾掲載
徳 永 京 子
2021年12月6日 公開

 

第3弾掲載
小 泉 今 日 子
2021年12月25日 公開

 

第4弾掲載
谷 賢 一
2022年1月22日 公開

 

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